「ボッチプレイヤーの冒険 〜最強みたいだけど、意味無いよなぁ〜」
第107話

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帝国との会見編
<アイテムボックス>



 砂糖の話が思いの外好意的に受け入れられたのを見て、私は少しだけ欲が出てきた。
 でもそれが元で、まさかあんな事になるなんて・・・。
 考え無しで愚かな私は、今のところはまだボウドアでの栽培はしてないけどエルシモさんたちが栽培している作物もいずれは作る事になるだろうから、この機会に売り込んで置いてはどうだろうか? なんて、つい考えてしまったのよ。



 「あと、これはまだボウドアの村での実験はしていないのですが、我が城では栽培に成功したのでいずれは二つの村での栽培を考えています」

 私はそう言うと、アイテムボックスからイチゴとブルーベリーの入った籠を取り出してテーブルの上に置いた。

 「先程のパーティーでお披露目をしたお菓子に使われていたジャムは、この二つのベリーを使って作らせたものですの。二種類ともとても美味なのですが、特にこの赤い方のベリーはそのまま食べてもとても美味し・・・あの、どうかなさいました?」

 ふと気が付くと、フルーツの説明をしている私を皇帝陛下とロクシーさんが・・・なんと言うかなぁ、あっけに取られたような、驚いて声も出ないような、そんな表情で見つめていた。

 はて? 何かおかしな事やったかしら?

 そう思ったところで、私はある事に気が付いた。
 もしかして先程のパーティーで得体の知れない物を食べさせられたと聞いて驚いてるとか? だとしたら大変だ! ちゃんと害はないと説明しないと。

 「えっと、確かに此方ではあまり見たことがない食材かもしれませんが毒はないですし、私どもはいつも食べているフルーツなので何の問題も無いですよ。それに砂糖を加え、熱を通してジャムにしているので保存性も上がっていますから口にして何か害になることもありませんし」

 慌てて言いつくろったものの、二人の表情は未だ変わりなし。
 一体どうしたって言うのよ、イチゴやブルーベリーの問題じゃないの? なら一体何が?

 そんな考えから私は隣に座っているシャイナの方へと目を向ける。
 もしかしたら何か気が付いているかもって一縷の望みをかけての行動だったんだけど、どうやらシャイナも何が起こっているのか解らないらしくて、私同様目が泳いでいた。

 ああもう! ここにメルヴァかギャリソンがいたらフォローしてもらえるのに・・・でも、常日頃なら助け舟を出してくれるであろう二人はここにはいない。
 だからこそ、ここでは私が何とかするしかないのよね。

 「エル=ニクス陛下? 本当にどうなさったのですか? 私、何かお気に触る事でもいたしましたでしょうか?」

 かと言って私程度の人間が頭を捻った所でメルヴァやギャリソンのような機転がきくはずも無いので、素直にもう一度聞く事にした。
 それで対処できないような事だった時は、またその時考えよう。

 どうやらそんな私の判断は正しかったみたいで、私の二度目の問い掛けに皇帝陛下はやっとフリーズが解けたかのように動き出し、

 「いっ今のは一体・・・一体なんなのだ? 一体どこからそれを出した!」

 私の前に置かれたイチゴとブルーベルーを震える手で指差して、そうまくし立てて来た。
 それも驚愕の表情のままで。

 「えっ? どこって、アイテムボックスの中からですが?」

 私は一瞬何を言われたのか解らず、そのままの答えを口にする。
 だってそれ以外言いようがないもの。

 「アイテムボックス? アイテムボックスとはなんだ? 私には何も無いところからそこ籠を取り出したとしか見えなかったぞ!」

 「わたくしもです。アルフィン様は何もお持ちになられていなかったはずなのに、いきなりこの様なフルーツが乗った籠がどこからか現れて、驚きのあまり固まってしまいましたわ。これもアルフィン様の魔法ですか?」

 えっと、もしかしてこの世界にはアイテムボックスって存在しないの?
 でっでもでも、カロッサさんのところでは何も言われなかったじゃない! だから私はてっきりこの世界にもあるものだと思い込んでたんだけど・・・でももし本当に無いとすると、この存在を知られたのは私最大のミスかもしれない。
 だってこれ、あまりにも有用すぎるギミックだもの。

 「アイテムボックスと言うのは空間魔法の一種で、品物が入る空間を異空間に創造して、そこに色々な物品をいれて運ぶ事ができる魔法です」

 話しながら設定を考える。
 とりあえず誰にでも使えるわけではないという方向に持ってかなきゃいけないわね、たとえばシャイナが使えるのがばれたら、もしかすると今現在も武器を隠し持っているかもしれないって疑われるかもしれないし。

 そうだ! 確かエルシモさんがこの世界では素養のあるものしか魔法を操れないって言っていたっけ、その設定を使わせてもらおう。

 「これは空間魔法を操る素養があるものしか習得できませんし、その容量も人によってまちまちです。私も御覧の通り一応使用できますが、カバンを持ち歩いても変わらない程度しか入りません。ですが、逆に言えば空間魔法を操る素養があるものならば誰でも習得できる魔法だと思っていたので、この国にない魔法だとは想像もしていなかったのですよ」

 「その空間魔法というのは?」

 「文字通り空間を操る魔法です。そうですねぇ、例を挙げるとすると空間に干渉して異空間を作ったり、二点間をつないで転移させたりする魔法が空間魔法になります」

 う〜ん、これはどうやって切り抜けよう?

 皇帝陛下の質問に、とりあえずありそうな設定をでっち上げながら私は頭を抱えた。
 だって今口にした内容からすると、たとえばテレポートができるマジックキャスターならアイテムボックスは習得できることになってしまうもの。
 でも、このアイテムボックスは別に魔法でもなんでも無いから習得できるとはとても思えないのよねぇ。 

 「異空間を作るか。なるほど、その異空間に物を入れて持ち運ぶ事が出来るというのだな。だがそんな魔法があるというのなら警備はどうしているのだ? 先程アルフィン殿はカバンに入る程度のものしか入れることができないと言ったが、もっと大きなものを入れることが出来るものもいるのであろう? たとえば剣や槍などを」

 「それに関しては問題はありません」

 回れ、私の脳細胞!

 「先程も申しましたが、この魔法が使えるのは空間魔法を操る素養があるものだけです。そしてそんな大きなものを入れることが出来るほどの修練を積んだマジックキャスターが同時に剣技や槍術を極める事など到底できませんから。そしてそもそもそれだけの力をもったマジックキャスターならば武器など持ち込む必要はないですからね」

 確かカロッサさんのところでギャリソンが色々出していたわよね。
 ギャリソンには素手以外の攻撃をこの世界の人に見せてはダメよと、後で釘を刺しておかないといけないわね。
 素手なら私のように僧兵だと言う事でごまかしが効くけど、剣技なんて見られたら言い訳が効かなくなるもの。

 「それにこのアイテムボックスは入れている物の重さや体積によって魔力を消耗量が違います。私が先程出したベリー程度ならば入れたままにしても自然回復量で相殺される程度ですが、そのような重いものだと常に魔力を使っているような状況になってしまうのでマジックキャスターなら、そうでなくとも高位の冒険者ならば魔力の発露に気が付くでしょう。なので、まったく警戒されていない場所ならともかく、この様な場所に誰にも気付かれずに武器を持ち込むのは無理だと思いますよ」

 「魔力の発露? 聞いた事がない言葉ですが、それは一体どのようなものなのでしょうか?」

 「魔力の発露ですか? この国では言い方が違うのでしょうか・・・」

 どう説明したら良いかなぁ? と私はとりあえず悩むような素振りをして一度頭の回転を止める。
 折角頭を休めるチャンスがきたのだから、ここで一拍置いて頭を冷やそう。

 とりあえずごまかせる方向へは来ているのだから、この魔力の発露と言うのをうまく説明できれば何とかなるわ。
 だからここは慎重に。

 「説明するのがちょっと難しいですね。陛下かロクシー様のどちらか、魔法を使われますか?」

 「いや、私は使えない」

 「わたくしもです」

 うん、知ってる。
 ギャリソンの報告書を読んでるからね。
 これはとりあえずこの二人はマジックキャスターでも冒険者でも無いから、魔法の発露そのものを体験してもらって説明するのは無理だと言う事を知ってもらうための振りだ。

 「一番簡単なのは大きな魔法を発動寸前まで構築して、それを感じ取ってもらうと言うのが簡単なのですが、それでは無理ですね。では口で説明しないと言えないのですが、何と説明したら良いのでしょう? 発露と言うのはマジックキャスターが魔法を使用した時になんとなく感じる気配のようなものです」

 「なんとなく感じるものなのか?」

 「はい。魔力の流れを感じると言いましょうか・・・」

 と、ここで私はあるごまかし方法を思いつく。
 うまくすれば、これでこの話はカタが付くかも。

 「ああ、マジックキャスターでなくても隣の部屋で控えている四騎士の方々位強ければ、気を研ぎ澄ます事によってなんとなく解るのではないでしょうか。そうだ、お一方此方にお呼びして、私がその目の前で物を出し入れして見せましょう。小さなものでも出し入れの時は多少魔力が動きますもの。それを感じ取ってもらえれば」

 「なるほど、私たちでは解らずともバジウッドたちなら何か感じるかも知れぬというのだな。解った。おい」

 皇帝陛下はそう言うと、入り口前で控えていたメイドさんに顎で合図を送る。
 するとそのメイドさんは一度深く頭を下げてから入り口の扉を開けて退出して行った。

 あれ? 隣の部屋に行くのだからてっきりそこの扉を通って行くのかと思ったけど、あそこは緊急用なのかなぁ、わざわざ外を通ったと言う事は。

 そんな事を考えていると、

 コンコンコンコン!

 「バハルス帝国四騎士、バジウッド様、御着きになられました。お取次ぎ願います」

 そんな声が外から聞こえてきた。
 何と、ここでもそんな仰々しいことするのね。
 まぁ、皇帝陛下がいるんだから当たり前か。

 「失礼します。及びでしょうか、陛下」

 メイドさんに伴われて入ってきたのは厳つい顎鬚のおじさん。
 まぁ、私に心酔してるっぽいレイナースさんだと不正を働きかねないから、当然この人選だろうね。

 「うむ、ご苦労。実はな」

 今までの話を説明された騎士さんは私の方へと目を向けた。
 何というか厳しそうな顔をしているなぁ、緊張してるのかな?

 「そんな気を張ったような顔をしなくても良いですよ。あくまで目の前で物を出し入れするだけですから。」

 私はそう言うとにっこりと微笑む。
 ほらほら、此方は人畜無害な小娘なんですから、そんなに固くならないの。
 そういう気持ちを籠めてね。

 「それでは始めます」

 そう言って目の前にあるお茶の入ったカップを手に取り収納。
 この時ほんの少しだけ気を辺りに放出する。
 キ・マスターである私にしかできない誤魔化し方なんだけど・・・騎士さんの厳しそうな顔が難しそうな顔に変わっていた。

 「すみません。何も感じません」

 ありゃ、だめか。

 ふと横を見るとシャイナが「ちゃんと感じるよ?」って顔でこちらを見て小さく頷いているから、気の放出はちゃんと知覚できるレベルで出ているはずだ。
 でも感じないというのだから、実際に彼は何も感じてはいないんだろうね。

 残念、折角やったのになぁと、私はちょっと落胆しながらカップをアイテムボックスから取り出し、テーブルの上へと戻した。

 「そうですか。でも、いつもモンスターからの魔法での奇襲を警戒している冒険者やマジックキャスターならきっとその違和感を感じる事ができると思います。ですから、城で警戒にあたっているようなマジックキャスターなら魔力の流れに敏感ですから同様にできると思いますよ。それに今回はこんな小さなカップでの実験ですけど、もっと大きな、それこそ剣とかなら魔力の発露は大きくなりますから、その時は気が付くと思います」

 と言うか、気が付くと言う事にしてもらわないと困る。 
 どんなものでもこっそりと持ち込めるこのアイテムボックスは、それに対しての備えをしていないものにとってかなりの脅威と感じるはずだから。
 それだけに対処法が無いとなれば、それだけで此方の脅威度が大きく増してしまうもの。

 と、その時。

 「シャイナ殿は感じる事ができたのですか?」

 「えっ? はい、私は感じ取る事ができました」

 先程のやり取りを見てシャイナには解ったのだと感じ取ったんだろうか? 騎士さんは同じ戦士であるシャイナからの説明なら理解できるだろうと思ったのか、私ではなく彼女の方に詳しい説明を求めてきた。
 まぁ、実際マジックキャスターに聞くよりはその方が良いかもね。

 「それはどのようなものなのでしょう? 詳しく説明していただけないでしょうか?」

 「私がですか? いいですけど・・・なんと言うかなぁ、後ろから来る殺気のない攻撃に感じる気配が一番近いかも? たとえば誰かがいたずらで後ろから叩こうとしても気配を感じて避ける事ができるでしょ? あれです」

 その説明で本当に解るのか? と思ったけど、なにやら騎士さんが感心したような顔で頷いているから、もしかしたら解ったのかもしれない。

 この二人の会話を聞いて、騎士って、というか前衛職って凄いなぁなんて私は感心していたんだけど、そうしたら今度は皇帝が急に変な事を言い出した。

 「なるほど、あれはその気配を感じる事ができるレベルだからこそか」

 「俺もそれを思い出して納得したよ。なるほど、それを感じる事が出来るレベルだからこそ、あれを避けられたと言う訳か」

 そしてその言葉に騎士さんも笑いながら賛同しているのよねぇ。
 ??? 何を言ってるんだ、この人たちは?

 「ああ、言葉足らずでしたね。先程のダンス会場でのことですよ。私もこの者も死角からぶつかりそうになったほかのダンスパートナーを見事にかわしたシャイナ殿の姿を見て、後ろに目が付いていないのにどうやってあれに気付き、かわすことが出来たのかと先程アルフィン殿の準備を待つ間、話をしていたのです」

 ん? ・・・ああ、あれか。
 特にすごい事だとは思ってなかったから忘れていたわ。
 でもそうかぁ、あんな所まで見てるのね、この人たちは。

 そんな事に感心しながらも、この流れはアイテムボックスの話をうやむやにするには好都合だと考えた私は、シャイナの体捌きとか技量の話を膨らませる方向に会話を持っていくよう、努力する。

 その努力が実を結び、この会談が終わるまでこの話題は盛り上がり、無事に最後まで乗り切ることが出来たアルフィンだった。


あとがきのような、言い訳のようなもの



 長かった皇帝陛下との会談はこれで終了です。
 ただ、もう1話ほどこの章は続きますが。

 そう言えばこの話も一応伏線があったなぁと書きながら先週のあとがきのことを思い出してました。
 この内容で書く事ははじめから決まっていたのですっかり忘れてましたよw

 さて、アイテムボックスの魔法を覚える空間魔法の素養に関してですが、これはまた次回に書くのでここでは「どうするんだ? これ」と言う突っ込みは無しの方向でお願いします。


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